「作者の死」と「大女優さん」

いよわ考察

突然ですが、「大女優さん」という曲を作ったのはだれでしょうか?

もちろん、いよわさんです。

では、MVを作ったのは誰でしょうか?

そりゃあ、いよわさんです。

しかし、それはどこに書かれているでしょうか?

冒頭のマークが根拠となるかもしれません。ですが、他の曲ではいよわさんがMVを作ったということがしっかりと示されているにもかかわらず、この曲だけマークで済まされるとは考えにくいでしょう。

おそらくは動画が投稿された架空のプラットフォームを表していると思われます。

答えを探し求め、動画の概要欄を眺めていると

(編集:いよわ)

という記述が見つかります。

ここで連想したのが「作者の死」です。

作者の死とは

作者の死 - Wikipedia

これについて知るためにそもそも「作る」とはなんだ?という問題と向き合ってみましょう。

当然ですが、あるゆる物体は原子で構成されています。逆に原子を組み立てることであらゆる物体を作ることができます。作る方法は原子を組み立てる以外にないのです。

「作る」というと無→有のプロセスを想像してしまいますが、それは「作る」ではないと考えられないでしょうか。これを区別して「創造」と呼ぶことにします。もう一方を「創作」と表現しておきます。

テクストは現在・過去の文化からの引用からなる多元的な「織物」である

つまり、作品は「創造」されるものではなく「創作」されるものだという主張です。「創造主」はいないのです。

私がいなくなってる

大女優も 愛の渦も
完璧なプロットで動く ああ
最小限の ビラ広告と
私がいなくなってる 手紙箱の中

ここでの「私がいなくなってる」は映画に出演していないというニュアンスです。彼女は作者の立場にいます。

思わず笑い声を出してしまった瞬間に、
それが画面の向こう側から聞こえていることに気が付いた。

フレームから離れると彼女は作者の立場から降りています。彼女はシナリオに従う演者だったのです。次にこちらに背を向けてスクリーンにカメラを向ける人影が映ります。彼女が作者なのか!と思いきやエンドロールが流れます。彼女もまた演者だったのです。最後に少女が映しだされます。

「やっぱ人足りてない感ありますよね。登場人物の関係性があんまり入ってこない」

「高校生でそのピアスはいかつすぎん?w リアリティ大事よ」

「結局全部主人公の妄想だったってこと?どこまで現実だったんだろ、よく分からん」

「1,2ほどの魅力感じない」

映画に寄せられたコメントを見て、やけくそ気味にスマホを投げます。彼女の作った映画が理解されず、なげやりになっているのでしょうか?違います。彼女も演者なのです。

ショートフィルムを録ろう。
約五十秒 眠気がピークになれる邦画
暇で曖昧、嫌いな機械
もっと始終踊ろう。
ラスト数秒ですべてがひっくり返るような、
いかれた一人芝居がしたい。

彼女は作者になりたいのです。そして彼女は機械的、決定論的な世界をひっくり返したいのです。しかし、それは不可能です。

シナリオは、毒にも薬にもならない

戻って参照しますが、シナリオを作ったところでそれは「シナリオ」に書かれた行動に過ぎません。だから投げやりになっているのでしょう。

大女優もどきと言われたくないの
うずもれたまま、いつ
完璧なプロットで動くのですか
認められぬ再証言 覗き込んだ扉
鴻鵠飛び立つ窓辺に
私がいなくなってる 手紙箱の中

作者になれずじまいの大女優から逃げ出したいようですが、想像通りにはいきません。

決定論的な世界に「間違い」はありませんから、2度目などありません。

「覗き込んだ扉 鴻鵠飛び立つ窓辺に」→灰色の靴


こちらの曲の最後で

もう 運命は止まらない

とあることから「灰色の靴」の主人公はループから抜け出すことに成功していると読み取れます。


「大女優さん」で撮られていた映画は3つあると考えられます。ひとつは「大女優さん」自体ですが、他に「灰色の靴」が含まれるのではないでしょうか。

ちなみにもうひとつは「SLIP」だと思っています。「灰色の靴」の代わりのシーンを自分で演じてみたものが「たぶん終わり」

鴻鵠飛び立つ窓辺に
私がいなくなってる 手紙箱の中

とすると、こちらの意味はキャラクターが私のもと(シナリオ)から離れてしまったということでしょう。私は実現していないのに…

「大女優さん」は実現不可能な夢に対する絶望を表現しているのかというとそうでもないと思っています。

醒めない夢は現実か

彼女が演者から抜け出す方法に関して、ひとつ可能性があります。

「SLIP」を使うのです。

「the making of “SLIP”」では研究の最終的な目標は過去を恒久的に改変できるものへと変容させることだと述べられます。

研究では夢が醒めるまでの猶予を2年に引き延ばすことに成功しています。同様の方法で猶予を無限に延長させればよいと研究者らは考えているのではないでしょうか。

しかし、ここで疑問が生じます。醒めない夢=現実なのでしょうか?

答えはわかりませんが、これが彼女の見つけた希望だと思います。

夢(SLIP時空)は作者の支配から逃れています。なぜなら夢を定義できないからです。夢の中で夢を見る、そしてその夢の中で夢を見る…ということが可能です。シナリオに「夢」が記述されても「夢」が示す内容は無限後退しています。

「夢」が示すものは何か?という問題の答えは常に先送りされます。

夢の中ならば、大女優から抜け出すことが叶うのです。

あとはこの夢が現実かどうかです。

第四の壁

「作者の死」に戻りますが作品の意味は常に先送りされます。

作品は現在や過去の文化から「引用」によって構成される多元的な「織物」です。

作品を理解することは作品の「引用元」を全て明らかにすることです。しかし、今この瞬間にすべての「引用元」を明らかにすることはできません。最初にいくつかの「引用元」を明らかにし、その後「引用元」の「「引用元」」を明らかにするというプロセスを踏むはずです。つまり、作品を真に理解する瞬間は未来へ先送りされます。

これは夢の構造と同じです。そもそも「SLIP」を使わなくても彼女は大女優から逃れられているとも考えられます。

彼女がこれを知ることはありませんが。

第四の壁さえなければ…

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